私のDIVA原体験 姫川玲子と「ストロベリーナイト」

私のDIVA原体験  姫川玲子と「ストロベリーナイト」

※「ストロベリーナイト」シリーズには性暴力のシーンが含まれます。ご自身と相談の上、ご視聴ください。

衝撃だった。稲妻が走るとはこのことなんだと、11歳の私はテレビの前で慄いていた…

姫川玲子は、深紅色のエルメス・オータクロア、パンツスーツ、10cmのヒール、胸元まであるストレートの髪の毛をサラサラとなびかせていた。

水色のランドセル、春夏秋冬・黒のスパッツ着用、ピンク色の俊足、ポニーテールのしすぎで右おでこが若干禿げている小学生女子にはあまりにも刺激が強かった。

一体、何の話が始まってしまったんだと思っている方へ。

今回は私のDIVA原体験、つまりMY FIRST DIVA、「ストロベリーナイト」の姫川玲子について話をしてみようと思う。私はDIVA愛好家であるとともに、テレビドラマが大好きだ。ドラマ好きがこうじて、現在は、ドラマ関連の仕事をしている。つまり、私を大きく構成する要素が2つも合わさった「テレビドラマDIVA」の1人、姫川玲子との出会いは私の人生を方向づけた。と言ったら過言ではあるが、大きな影響は受けたと思う。

ー姫川玲子とは一体どんな人物なのか

まず「ストロベリーナイト」とは、誉田哲也の小説「姫川玲子シリーズ」が原作の、フジテレビ系で放送した刑事ドラマのことである。2010年にスペシャルドラマ(いわゆるパイロット版)が放送。2012年1月クールには連続ドラマ版、そして2013年には映画版が製作されたシリーズだ。「ノンキャリアで成り上がり系の警視庁捜査一課の女性刑事・姫川玲子」(公式サイト原文ママ)が鋭すぎる直感と体当たりな捜査で猟奇的な殺人事件を解決していくという物語で、姫川玲子を演じたのは名優・竹内結子。刑事役はこのドラマが初めてだったということを知り、その才能に今更ながらクラクラしている。

自身の記憶とwikipediaの情報を照らし合わせると、11歳の私は2012年に放送されていた連続ドラマ版を見ていたようだ。

姫川玲子は先述した通り警視庁捜査一課の刑事。捜査一課、唯一の女性刑事(激ヤバ組織)で、姫川班の主任を務めている。彼女はとにかく何をしても、どこを切り取っても、いつでもアイコニックな人物だ。冒頭で彼女の外見については触れたが、動く姫川玲子はもっと魅力的だった。深紅色のオータクロア(中古品で85万、24回ローンらしい)を事件現場だろうがどこにでも連れて行き、平気で地べたに置く姿。捜査会議が行われる大会議室の最前列で、遠藤憲一演じる日下を睨みつけながら、大声でキリリと号令をかける姿。自分の推理能力を決して疑わず、大声で怒鳴ってくる上司の話を遮って怒鳴り返す姿。ズカズカと10cmヒールで悪態をつきながら廊下を歩く姿。捜査が行き詰まると、サラッサラッの長い髪を勢い良くかき上げて、豪快にガサガサとかきむしる姿…。野心家で、威勢が良くて、基本的にイライラしている彼女のことがとにかく大好きだった。

ー姫川玲子は語られない

姫川玲子はこんなに素敵な人物なんだから、もちろんDIVAは全員「ストロベリーナイト」は既に履修済みだよね?と気持ちが溢れて聞きたくなるが、それはしない。なぜなら「ストロベリーナイト」は現段階で名作として語られていないと知っているから。というか、誰も「ストロベリーナイト」の話はしていない(号泣)。生きてきた中で、この作品のファンに出会ったことがない。姫川玲子という名前を私の口以外から聞いたことはない(大号泣)。

そもそもテレビドラマ自体が、批評される機会が極端に少ないという実態はある。しかし岡室美奈子、綿貫大介、柚木麻子などの、ドラマが大好きかつ「ドラマはこの社会や日常を読み解くもの」として話す人がいても、「ストロベリーナイト」と姫川玲子は語られない。

その理由は、この作品および彼女が、2026年の今、語られるべきフェミニズムの形をしていないからなのではないかという仮説を私は立てる。

久しぶりに作品を見返してみたら、姫川玲子は記憶よりもずっと感情的で、論理的ではない人として描かれていた。周りの男性刑事の感情が抑え気味に描かれていることからも、姫川玲子の「女性性」とそこがやけに紐づけられているように見えた(紅一点ものあるあるなのかもしれない)。

あと姫川玲子は唯一の後輩女性刑事に優しく接することはないし、男性中心的な組織体制に対して疑問を感じているような素振りは見せない。またその体制自体を変えようと動くことはない。さらに姫川班の手柄になるのであれば、「女性」という共通点だけで事件のキーパーソンに近づくこともある。仕事人間と言えばそれまでだけど、フェミニストとして共感できるキャラクターではない。

また物語の全体を通して、姫川玲子と彼女の母親との関係性が描かれるが、最終話で「弱くてずっと心配だった娘からの『私は強くなったから大丈夫』という言葉と共にハグされることで安心する母親」という構図で2人の間にある問題は解決したことになっている。しかし、母親が娘のことを過度に心配するようになったきっかけ、彼女が17歳の時に受けた性暴力(彼女が刑事になるきっかけにもなった)とその時彼女が負った傷を「強くなったから」という理由で片付けられるものだとは到底思えない。その後の続編でも、彼女が当時の出来事を「乗り越えている」とは思えない描写(当時のフラッシュバック)は続くし、製作陣が彼女が受けた暴力を彼女の行動の原動力としてしか扱っていないところが垣間見える。

多分、2026年の1月クールで「ストロベリーナイト」を見ていたら、こんなにハマることはなかったと思う。むしろ批判していたかもしれない。語ることができる枠や作品数が限られている現状において、マッチョでワーカーホリックな女性の話は、後回しになってもしょうがない。

ー11歳の私に起きた革命

それでは、11歳の私に「ストロベリーナイト」の姫川玲子の何が刺さったのか。

当時の私は小学生で、昼休みは男子の中に1人で混ざって手打ち野球に励み、教室で女子と話す時は好きな人の話をしてみて、放課後の学童保育では、「天下」というボールゲームを毎日して、家に帰ってくるときはいつもゆでダコのように顔が赤かった。「男子」にも「女子」にも完全にはフィットすることができていない感覚があり、自分のことがよくわからなかった。記憶は定かではないが、一回女子全員から無視された記憶もあり、いわゆる「浮いた」奴だったのかもしれない。このような子どもだった私にとって、「ストロベリーナイト」は「素敵な女性が、空間に馴染めていないのに、それでも自分を貫き通すお仕事ドラマ」だった。素敵な人でも「浮いた奴」になることがあるのかと衝撃を受けた(この衝撃は数年後、「Glee」と出会うことで、さらに「変なやつが輝く」という私のDIVA持論に繋がっていく)。また彼女と自分を重ねて(烏滸がましい)、「浮いた」私が変わる必要はないんだと気がつき、なんだか嬉しかった。どうやら11歳の私は、マッチョなフェミニズムのメッセージは受け取らず、良いところだけ抜き取ったようだ。製作陣も姫川玲子を「浮いた奴」として扱い、自分と重ねる小学生はターゲットとして想定していないだろう。色んなドラマに救われる色んな人間がいる、作品側も与える影響を把握しきれない面白さがテレビドラマには常にある。物語の中のDIVAに支えられ続けた24年間だった。これからも、もっと沢山のDIVAを見たいと思う2026年初旬なのであった。

【余談】「ストロベリーナイト」をベタ褒めしてみる

ここからは余談。主役がずば抜けて魅力的なキャラクターだと、それだけで作品は面白いため、振り返ってみればそれ以外の要素はイマイチということは往々にしてあるが、「ストロベリーナイト」は姫川玲子以外にも語りたい点がとても多いドラマだ。

まず全体構成について。全11話の中で、一話完結のエピソードが第1話と、第6話のみという、現状の刑事モノでは、あまりないスタイルなのではないか。視聴者が脱落せずに毎週視聴することを確信しているその自信…!カッコイイ。特に第9話から最終話まで3話分かけて描かれる「ソウルケイジ」は放送から14年経った今でも、色あせることがない名エピソード。

またキャストの座組がとにかく優れている。姫川玲子と彼女を慕う姫川班の4人の部下たち(菊田:西島秀俊、ノリ:小出恵介、保さん:宇梶剛士、康平:丸山隆平)と助っ人の井岡(生瀬勝久)の関係性や、やり取りは、凸凹ながら「デカい山を解決する」という共通の目的のもと信頼しながら解決していく。お仕事ドラマの良さがぎゅっと詰まっている。

ファンが絶叫したのは、西島秀俊が演じた菊田と、姫川玲子の関係性だろう。現在でいうところのむっちゃ「メロい」関係なのだ。これはドラマ版で膨らませた要素だというから、そのセンスの良さに驚く。姫川玲子は30歳、菊田は36歳の設定らしいのだが、菊田は年下の上司である姫川玲子の捜査能力を一度たりとも疑わない。ただただ彼女の指示に忠実だ。強い女にビビるどころか、上司として尊敬、かつ好意を持っているキャラクターは当時の私には新鮮だった。あと無理やりチューとか、ハグをしないのも好印象だった。壁ドンとか顎クイも絶対しないタイプだった(この後、それらの行動が横行する胸キュン映画が流行するので、やはり菊田というキャラクターは珍しかったと思う)

姫川玲子の上司の1人、渡辺いっけいが演じた橋爪も特筆するべきだろう。 放任タイプで、SuperJuniorと同じ方式の挨拶をする直属の上司・今泉(高嶋政宏)とは対照的な存在として描かれている。とにかく姫川玲子を信用していない。ミソジニーを隠さず、姫川玲子を「お嬢ちゃん」と呼び、証拠なしに勘で捜査を進める姫川を詰めまくる(会社員になった今、橋爪の行動には共感するところもある)。第10話の煽り方はすごすぎて、笑えてくる。多分演じている本人が楽しくなっちゃっている。はっきり言って日本ドラマ史における最高のヒール(味方だけど)の1人である。

最後に外せない点をもう1つ。「ストロベリーナイト」は武田鉄矢の再解釈に成功した作品だと私は強く思う。(ここから4行は本当に失礼なので武田鉄矢ファンは読まない方が良い)「ストロベリーナイト」以前の武田鉄矢といえば、「金八先生」。とにかく「金八先生」のイメージが強すぎて、また彼のバラエティ番組での振る舞いを見ていても、「良い人らしい」「先生らしい」「腐ったみかんのエピソードを持っているらしい」「話すときに首が連動して動くらしい」と、あれこれって武田鉄矢の情報?、それとも金八先生の情報?となり、役と役者の区別がついていなかった。そんな彼が演じたのは勝俣、通称ガンテツである。怖い。本当に怖いが魅力的なキャラクターである。勝俣班主任ではあるが、一匹狼で、秘密主義。犯人検挙率が最も高いため上司含め誰も何も言えないが、ヤクザや半グレに暴力や賄賂を使って強引に捜査を進めており、後輩にもパワハラ・モラハラのオンパレード。小さい身体に長めのコートというそのアンバランスさもとにかく怖かった。「ガンテツこわー」と言いながら、「金八先生」のペルソナが武田鉄矢から剥がれ落ちるのを見た。俳優として光り輝いていた。 というように、作品の魅力は枚挙にいとまがない。しかし、こんなに語ったのに〜??となるかもしれないが、やっぱり、竹内結子が演じる姫川玲子がいなければ、成立することはないドラマであることは間違いない。暇な時ぜひ見てみてほしい。

この文章は、ケイが友人と制作したZINE「うちらは最強DIVAになりたい」に掲載した文章です。 ZINEの購入を希望される方は、ケイのInstagram(@kayoniko0)のDMまでご連絡ください。